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連載【第2回】:全日本実業団陸上が10倍面白くなるコラム (2017.09.10)

<色々な見方で楽しめる長距離種目>
~「東京五輪」「スーパールーキー」「マラソン」「駅伝」とキーワードの多い大会~

全日本実業団陸上の長距離種目は、見方によって色々な面を楽しむことができる。まずは純粋にトラック種目として、3年後の東京五輪有望選手の走りを見ることができる。さらにはこの大会を、マラソンに結びつけようとする選手も多い。そして10月から始まる駅伝へのステップとしたいチームもある。トラック種目ではあるが、駅伝、マラソンにもつながる面白さを、存分に感じながら観戦できる大会なのである。
 
◆世界陸上ロンドン代表・鍋島が、実業団初10000mに挑戦
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鍋島莉奈(JP日本郵政グループ)の初代表だったロンドン世界陸上は大健闘だった。5000mで15分11秒83の自己新をマークし、決勝進出に4秒64差と迫った。入社2年目のここまで、トラックは5000mに専念してきた鍋島だが、全日本実業団陸上では実業団初10000mに挑戦する。
高橋昌彦監督はその狙いを「来年の日本選手権10000mの出場資格(標準記録突破)を取りに行くことが第一の目的ですが、東京オリンピックを見据えて鍋島の可能性を見ておきたい。練習を見たら、31分台では行ける」と話した。

日本郵政は昨年の日本選手権10000mに鈴木亜由子が優勝し、今年の日本選手権は5000mで鍋島が優勝。北京世界陸上(鈴木)、リオ五輪(鈴木と関根花観)、ロンドン世界陸上(鈴木と鍋島)と3年連続で代表を輩出し、昨年はクイーンズ駅伝にも初優勝した。ライバルチームとしては、なんとしても日本郵政の勢いを止めたいところ。31分台の記録を持つ石井寿美(ヤマダ電機)、一山麻緒(ワコール)、松崎璃子(積水化学)、加藤岬(九電工)の4人がその有力候補だ。

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22歳の石井は31分48秒24と、出場資格記録は今大会の日本人で一番。森川賢一監督は「すごく良い状態。31分半くらいで行けそう」と自信を見せる。20歳の一山は日本選手権2種目で4位。世界陸上代表入りは逃したが、ワコールでは五輪4大会出場の福士加代子に続く選手と期待されている。松崎は2014年アジア大会5000mで5位(自己新)。その後10000m進出にも成功している。加藤は日本選手権前からの故障で練習不足は否めないが、全日本実業団陸上は昨年2位の、相性の良い大会である。
ラスト1周の勝負になると、スピードのある鍋島が有利となる。他の選手が早めに鍋島を振り切ろうとすれば、速いペースになって記録も期待できるだろう。

 
◆19歳スーパールーキーの挑戦
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今年、学法石川高(福島)から住友電工入りした遠藤日向が、男子5000mで実業団トップレベルに挑戦しようとしている。
2~3月にアキレス腱を故障した影響で4月は振るわなかったが、5月の関西実業団陸上では1500mと5000mに優勝。6月の日本選手権は1500mで2位となり、7月には3000mで7分54秒79とU20日本新をマークした。
住友電工の渡辺康幸監督も、シーズン前半を「順調です」と振り返った。
「1500mで日本選手権3位以内、3000mのU20日本新を目標にしていましたが、2つともクリアしてくれました。前半は1500mと3000mでスピードをつけることができたので、秋から冬にかけては5000mをしっかりと走ることが目標です。全日本実業団陸上では日本人トップ争いに食い込みたいですね」

全日本実業団陸上の男子5000mは、3組に分かれてのタイムレース。昨年は湿度の高い悪コンディションで、13分38秒93の中村匠吾(富士通)が日本人トップ、2位の服部勇馬(トヨタ自動車)は13分47秒33だった。今年は日本選手権優勝の松枝博輝(富士通)、10000mで27分台を持つ横手健(同)、日本選手権10000m2位の上野裕一郎(DeNA)、1500mも強い服部弾馬(トーエネック)ら、遠藤から見ると“格上”の選手ばかり。

松枝は1500m、5000m、10000mの3種目にエントリーし、どの種目に出場するかは9月6日時点で決めていないが、遠藤と同じようにスピードもあり、ラスト勝負にも強い。同じタイプの新人に、負けるわけにはいかないだろう。
遠藤も怯んでいない。「全日本実業団がすごい楽しみ。はやく走りたい。レースの時の感覚、緊張感を味わいたい」と自身のツイッターに記している。
大学に進まず実業団入りしたのは、2020年の東京オリンピックに間に合わせるため。「3年目(2019年)に5000mで標準記録を切らせたい」と渡辺監督。五輪&世界陸上の標準記録は大会毎に変動するが、今年のロンドン世界陸上は13分22秒00だった。
遠藤にとっては東京オリンピックに向けて、大きな一歩となる大会が全日本実業団陸上である。

 
◆マラソンに向けて注目の選手たち

女子10000mに出場する石井と加藤は、すでにマラソンにも挑戦している。
石井は今年3月の名古屋ウィメンズが初マラソンで、10kmまでは5km毎を16分台のハイペースに食い下がり、2時間27分35秒で日本人4位と健闘した。加藤は終盤で大きくペースダウンしたとはいえ、2度目のマラソンとなった1月の大阪国際女子で、25kmまでは先頭集団で積極的に走った。
2人ともこの次のマラソンで、新設される五輪最重要選考レースのMGC:マラソングランドチャンピオンシップの出場権を狙う。全日本実業団陸上でも、終盤でしっかりと粘る走りをしたい。

女子10000mには2人の他にも小原怜(天満屋)、堀江美里(ノーリツ)、桑原彩(積水化学)、竹地志帆(ヤマダ電機)、宇都宮亜依(宮崎銀行)らマラソンで2時間20分台を出している選手は多い。8月の北海道マラソンに優勝したばかりの前田穂南(天満屋)と、42歳の超ベテラン小﨑まり(ノーリツ)もエントリーした。

男子10000mでは大石港与(トヨタ自動車)が27分48秒56、市田孝(旭化成)が27分53秒59で資格記録の日本人1・2位。ともに今年2月に初マラソンに出場したが、大石が2時間1010分39秒(別大4位)、市田は2時間19分24秒(東京50位)と明暗を分けた。
6月の日本選手権10000mは市田が3位で大石が6位。2人とも完全な調子でトラックシーズンを走ったわけではないが、底力を示す走りだった。
市田は昨年のこの大会で日本人トップを取り、ニューイヤー駅伝4区区間賞まで好調を維持した。連続日本人1位でロードシーズンにつなげたいところだ。大石についても、トヨタ自動車の佐藤敏信監督は「外国人に食い下がって日本人1位を。勝負強さを見せてほしい」と期待する。2人とも2度目のマラソンへのステップにしたい。
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また、“マラソン直前”の松村康平(MHPS)も10000mにエントリーしてきた。2014年アジア大会銀メダルの選手で、今年3月のびわ湖マラソンでも悪コンディションのなか日本人2位(2時間11分04秒)と好走した。全日本実業団陸上は「スピードの確認」(黒木純監督)が目的で、10月8日のシカゴマラソンを、「2度目の2時間8分台」(同監督)を目標に走る
同じMHPSで、ロンドン世界陸上代表だった井上大仁は5000mにエントリー。世界陸上は前半こそ集団の前に位置して積極的に走ったが、26位(2時間16分54秒)に終わった。秋のトラックシーズンから冬場の駅伝でもう一度、スピード養成をして次のマラソンに向かう。

 
◆駅伝で苦杯を喫した豊田自動織機勢が多数エントリー

駅伝に向けて注目したいのは女子では昨年優勝の日本郵政、3位のヤマダ電機、そしてスピードランナーが揃っている豊田自動織機だろう。男子では前回優勝の旭化成、2位のトヨタ自動車、そして日本選手権で2人が優勝した富士通あたり。

なかでも女子の豊田自動織機が、1500mにアン・カリンジ、5000mに福田有以、山本菜緒(補欠)、林田みさき、薮下明音、10000mに横江里沙、福田(補欠)、沼田未知、菅野七虹と全戦力に近いメンバーをエントリーしてきた。横江は一昨年にクイーンズ駅伝5区(10km)で区間賞を取り、福田は5000m15分20秒台で今季2回走った。全日本実業団陸上でも優勝争いに加わる力がある。

豊田自動織機はリオ五輪前に10000m標準記録を横江、薮下、沼田と3人が破り、福田も急成長を見せていた。優勝も狙っていた昨年のクイーンズ駅伝では、1区から2区へのタスキ中継でミスがあったため、まさかの失格をしてしまった。今年の駅伝では、去年の分も頑張りたいと考えているだろう。

すでに引退しているが1500m日本記録保持者で、5000mでも世界陸上決勝に進んだ小林祐梨子を輩出したチーム。横江と福田は小林と同じ須磨学園校出身で、同じように1500mから距離を延ばしている。
高校までに1500mのスピードをしっかりと培っている選手が多い一方で、マラソンで2時間27分27秒の記録を持つ沼田のようなスタミナ型の選手もいる。全日本実業団陸上には出場しないが、今年はアジア大会10000m代表だった萩原歩美も加入した。
10月から始まる駅伝に弾みをつけるためにも、全日本実業団陸上でチーム全体として好成績を狙ってくるだろう。

【バックナンバー】
【第1回】開催地長居と関わりの深い朝原宣治さんにインタビュー

【全日本実業団陸上特集記事リンク】
「Road to 全日本実業団陸上2017大阪(第5回)」
「Road to 全日本実業団陸上2017大阪(第4回)」
「Road to 全日本実業団陸上2017大阪(第3回)」
「Road to 全日本実業団陸上2017大阪(第2回)」
「Road to 全日本実業団陸上2017大阪(第1回)」

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