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連載【第5回(最終回)】:全日本実業団陸上が10倍面白くなるコラム (2017.09.23)

<最古の日本記録を更新した男子円盤投など、日本新が期待できる投てき種目>
~男子棒高跳は代表トリオの戦いに~
 

全日本実業団陸上には、見逃せないフィールド種目が多い。8月に日本記録が更新された男子円盤投を筆頭に、投てき種目で日本新が期待できる種目が複数ある。跳躍種目では男子棒高跳で、リオ五輪とロンドン世界陸上の代表3人が激突する。女子やり投では60mスローの応酬、女子三段跳では日本歴代2位など、レベルの高い記録が期待できる。

来年以降に活躍しそうな選手も多いので、長居陸上競技場で彼らの跳躍や投てきを脳裏に刻み、今後も継続して注目していけば陸上競技をさらに面白く見ることができるだろう。
 

◆男子円盤投は過去最高レベルの争い
フィールド種目では、8月に堤雄司(群馬綜合ガードシステム)が60m54と、最古の日本記録(1979年に川崎清貴が出した60m22)を更新した男子円盤投が熱い。
堤(円盤投)圧縮
堤個人の頑張りが、38年ぶりに歴史を動かしたことは間違いないが、種目全体が活性化していたことも日本新につながった。
全日本実業団陸上2017大阪 第2回 地区実業団大会に見る日本陸上界の“今”で紹介したように、5月の地区実業団では東日本の堤、中部の湯上剛輝(トヨタ自動車)、関西の安保建吾(愛媛競技力本部)と3地区の男子円盤投で大会新が誕生していた。

また、6月の日本選手権は2位の米沢茂友樹(オリコ)が58m53、3位の湯上が57m38と、日本選手権の順位別最高をマーク。投てき関係者は3人に、日本記録更新の可能性があると指摘していた。

その中では過去に60m台を2回投げ、自己記録でもアベレージでも現役ナンバーワンの堤が期待に応えた。しかし8月の60m54も、堤の中では満足できる内容ではなく、本人は58~59mくらいの感触だったという。気象条件もほとんど無風で、円盤投に有利な向かい風ではなかった。

日本記録が更新できた理由は複数あるが、「スピードとパワーの両立」(堤本人)に成功してきていることが大きい。そして昨年までは、重要な試合にピークを合わせていたが、今年は「どの大会もしっかりと準備をする」ようにした。

「高いクオリティを続けていれば、良い風、良い気候にどこかの試合で合う。全日本実業団陸上に向けても高いクオリティの試合ができる準備をすることを一番に考えています。その先に62mという記録が見えてくる」

長居競技場で、今季2度目の日本記録更新が見られるかもしれない。場合によっては湯上や米沢が、堤に勝つ予想外のシーンが見られるかもしれない。

 

◆男子砲丸投、女子ハンマー投にも日本新の可能性
日本新の可能性は、男子砲丸投にもある。畑瀬聡(群馬綜合ガードシステム)と中村太地(落合中教)の2人の争いは、畑瀬の持つ18m78の日本記録以上を投げた方が勝利を得る、というシナリオが用意されているかもしれない。

シーズンベストでは中村が、5月の静岡国際でプットした18m55(日本歴代3位)で畑瀬を3cm上回っている。この記録は回転投法の日本最高記録でもある。

中村は円盤投のインターハイ・チャンピオン。大学1年時に砲丸投も、グライド投法から回転投法に変更した。謙遜もあるのだろうが、「最近やっと回転投げがわかってきた」という段階で、自己記録を65cmも更新した。技術が安定すれば、記録を伸ばしていく余地はまだまだある。

18m台の回数では畑瀬が上回る。アジア・グランプリから帰国直後の静岡国際では、中村に敗れたが、「あれで火が点いた」と、東日本実業団では18m10の大会新で中村に雪辱。6月の日本選手権、7月のオールスターナイト陸上とトワイライト・ゲームスで18m台を続けた。

特にオールスターナイト陸上では、アップ段階では日本記録の手応えがあったという。「18m52の投てきは合わせただけで、スピードは出ていません。あの投げにスピードが加わったら19mも投げられます」と、秋シーズンへの自信を口にした。

女子ハンマー投では渡邊茜(丸和運輸機関)に日本新の可能性がある。昨年66m79の日本歴代3位をマークし、日本記録の67m77に98cmと迫った。今季も5月のゴールデングランプリ川崎で65m21の今季日本最高を投げた。東大阪大敬愛高出身。13年ぶりの日本新を、高校時代から慣れ親しんだ長居競技場でアナウンスさせたい。

だが、この種目も渡邊の独壇場ではなく、ライバル対決の様相を呈している。新人の勝山眸美(オリコ)が日本選手権で渡邊を破り、自己記録に迫る63m台を今季2回マークした。7月のアジア選手権でも3位と、渡邊に競り勝った。

渡邊が復調し、勝山が自己記録を更新すれば、65m以上の応酬が見られるかもしれない。

そして女子やり投には、ロンドン世界陸上代表の宮下梨沙(薫英女学院教)が出場する。昨年の全日本実業団陸上で60m86の自己新を投げ、今季は自身3度目の60mスローを見せて、6年ぶりの世界陸上代表復帰を果たした。

森友佳(東大阪大付属幼職)も今季59m10と、5年前の自己記録(59m22=当時学生記録)に迫っている。宮下と60mスローを投げ合っても不思議ではない。

新人の久世生宝(コンドーテック)も関西実業団優勝時に57m67と、4年前の自己記録(58m98=当時U20日本記録)に迫った。やはり新人の山内愛(長谷川体育施設)は、2年前の関西インカレで58m76を、今大会会場の長居陸上競技場で投げている。

関西と縁(ゆかり)のある選手たちが多い女子やり投も、好記録続出が期待できそうだ。

 

◆男子三段跳が最古の日本記録に
跳躍種目では日本のトップジャンパーたちが自慢のバネを、長居競技場を舞台に披露する。
松澤(棒高跳び)圧縮
男子棒高跳にはリオ五輪7位入賞の澤野大地(富士通)、リオ五輪&ロンドン世界陸上連続代表の山本聖途(トヨタ自動車)と荻田大樹(ミズノ)がエントリー。男子短距離種目に劣らない豪華メンバーとなった。

一番の注目は、今年の世界陸上出場を逃した澤野が、どんな跳躍を見せるか。日本選手権では5m50で2位に入ったが、有効期間内に5m70の標準記録を跳ぶことができなかったのだ。今年9月で37歳になり、コンディション維持は簡単ではないが、5m70を跳び世界で戦える力があることを示したい。

山本は4月に5m70以上を2試合でクリアし、日本選手権にも優勝。世界陸上直前にも5m72を跳んだが、ロンドンでは無念の予選落ちを喫した。荻田も今季5m70を跳びながら、世界陸上では力を発揮できなかった。

複数選手が5m60以上を跳び、5m70以上にバーを上げるだろう。

注目したいのは、前回優勝の松澤ジアン成治(新潟アルビレックスRC)だ。代表経験はないが、昨年の全日本実業団陸上では上記3人を破って優勝し、新潟アルビレックスRCの総合優勝に「想定以上の得点」(大野公彦監督)を積み上げた。澤野と荻田が記録なしに終わったことにも助けられたが、他の選手が自己記録を下回る中、自己タイの5m40をクリアしたことは評価された。

しかし今季は5m30がシーズンベストで、記録なしの試合もあり、実業団チャンピオンの片鱗を見せていない。相性の良い全日本実業団陸上で自己新となる5m50を跳べば、3強の一角を崩す可能性もあるし、総合優勝争いにも勢いをつけられる。

堤が男子円盤投の日本記録を更新したことで、最も古い日本記録種目となったのが男子三段跳だ。山下訓史の17m15は、31年前の1986年にマークされた。日本人最後の17mジャンプ(2000年に杉林孝法が17m02)からも17年が経っている。

昨年は長谷川大悟(XSPO)と山下航平(福島陸協)が、国内で16m80台を跳んでリオ五輪に出場した。今年は山本凌雅(順大)が16m87をジャンプしてロンドン世界陸上に出場したが、長谷川と山下は不調に陥ってしまった。

男子円盤投がそうだったように、複数の選手が高いレベルで競り合ったときに新記録は誕生しやすくなる。全日本実業団陸上では長谷川と、34歳の大ベテラン石川和義(長野吉田高教)、昨年優勝者の安部弘志(日体大職)たちが期待できる。2人以上が16m台後半を跳んで、17m台への気運を高めたい。

跳躍種目には、スタンドからの手拍子でリズムを取り、気持ちを盛り上げる選手も多い。選手が手拍子を要求したら、周りと合わせて手を叩いてほしい。今大会できっかけをつかんだ選手が将来日本記録を更新したなら、長居で送られた手拍子が歴史を動かす一因となるのだから。

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