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連載【第4回】:全日本実業団陸上が10倍面白くなるコラム (2017.09.22)

<荒井&小林のメダリストコンビを筆頭に、オールスター戦の競歩種目>
~見どころが異なるハードル種目~

日本の競歩界に新たなページを記したロンドン世界陸上後、代表選手が歩く最初の大会が全日本実業団陸上の10000m競歩である。

メダリストコンビの荒井広宙(自衛隊体育学校)と小林快(ビックカメラ)にとって、専門の50km競歩とは距離が大きく違う種目。20km競歩を専門とする選手が有利だが、負けることを怖れず果敢に出場するのが競歩の特徴。20km競歩と50km競歩の代表経験選手が多数出場する全日本実業団陸上の競歩は、いくつもの着眼点で楽しめる。

またハードル種目でも、ロンドン世界陸上代表が5人出場する。それぞれの種目で見どころが異なり、勝負を楽しめる種目もあれば、記録を期待できる種目もある。

◆メダリスト2人の凱旋レース

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ロンドンの男子50km競歩で荒井が銀メダル、小林が銅メダルという快挙を達成した。銀メダルは競歩史上最高順位で、同一大会複数メダルもマラソン以外では戦後初めて。谷井孝行(自衛隊体育学校)の北京世界陸上銅メダルに始まり、荒井のリオ五輪銅メダル、そしてロンドン世界陸上と3大会連続メダルを獲得し、日本の競歩が世界トップレベルであることを強くアピールした。

全日本実業団陸上は、荒井と小林の帰国後第一戦。ファンにとってはメダリスト2人の歩きを生で観戦できる最初の機会で、いうなれば凱旋レースだ。

荒井は出場の狙いを「練習の一環」としている。「メダリスト同士の争いを、見ている方には楽しんでもらいたいのですが、無理して勝とうとは思っていません。スピードが落ちているところがあるので、10000mを歩いてスピードに馴らしていく。来年2月に20kmの日本選手権(神戸)に出るので、そこに向けてスピードの感覚を試しておくことも目的です」

小林も同様に語る。「順位や記録というよりも、世界陸上から体がどれだけ回復しているか、を確認するレースです」

ガチンコ勝負にはならないが、女子の岡田久美子(ビックカメラ)を含めると、五輪&世界陸上の代表経験選手12人がエントリーした。まさに日本競歩界のオールスター的なレースとなる。

荒井が「違う場所での開催が多い競歩を、トラック&フィールドの他の種目と一緒に見られる数少ない機会。走ることに近いスピードや、美しい歩きを見てもらえれば」と言うように、競歩そのものを楽しむレースという側面もある。

とはいえ、2人のメダリストは20km競歩で1時間19分台と、5年前なら日本記録というスピードを持つ。特に小林は全日本実業団陸上で一昨年、昨年と連続2位。距離の短いこの種目でも十二分に通用する。

「自分では50km競歩選手の中ではスピードがある方だと思っているので、全日本実業団陸上のようなトラックレースを大切にして歩いて行きたい」と意気込む。大会記録は20km競歩世界記録保持者の鈴木雄介(富士通)が、2014年に出した38分27秒09。38分台の優勝記録になると小林も苦しいが、39分台中盤のペースなら、優勝争いに加わるだろう。

◆優勝争いは藤澤、松永、高橋ら20km代表たちが中心

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50km競歩のメダリストたちに、意地でも勝たせたくないと思っているのが20km競歩代表選手たちだ。

レースのカギを握るのは、2連勝中の高橋英輝(富士通)だろう。鈴木が故障でレースから遠ざかっている現在、スピードでは日本ナンバーワンと言われている。高橋が最初から飛ばしたら、50km勢がつくことは難しい。ラストスパートでも、余力があれば高橋のキレが威力を発揮する。

その高橋が絶対的な本命とは言い切れないところが、今の競歩界のすごいところだ。ロンドン世界陸上20km競歩では藤澤勇(ALSOK)が日本人トップの11位、昨年のリオ五輪では松永大介(富士通)が7位に入賞している。

優勝争いは上記のロンドン世界陸上代表3人(リオ五輪代表3人でもある)で展開され、小林、西塔拓己(愛知製鋼)、丸尾知司(同)らも加わる可能性がある。西塔は2013年モスクワ20km競歩6位、丸尾はロンドン50km競歩5位と、ともに世界陸上入賞経験がある。

さらに北京世界陸上50km競歩銅メダルの谷井、北京五輪50km競歩7位入賞の山崎勇喜(自衛隊体育学校)と、一時代を築いた選手たちも、次の50kmレースで健在ぶりをアピールするため、全日本実業団陸上をステップにと考えているはずだ。

レース展開は、優勝記録が38~39分台前半ペースで歩く先頭集団と、40分台中盤の第2集団に分かれると予想できる。荒井が第2集団に位置することになれば、荒井自身は勝負にこだわらないが、銀メダリストに勝つことで次につなげたいと考える選手は多いだろう。荒井に競りかける選手たちの表情に注目したい。

◆110 mHは世界陸上代表トリオ決戦。400 mHはロンドン代表vs.リオ代表

布勢スプリント2017 増野元太&髙山峻野

ハードル種目が、まずまずの活況を呈している。男子の110 mHと400 mHはロンドン世界陸上に3人ずつフルエントリー。女子100 mHも史上初めて2人が出場した。

男子110 mHでは増野元太(ヤマダ電機)、400 mHでは安部孝駿(デサントTC)、女子100 mHでは木村文子(エディオン。今回は100 mに出場)と、3種目とも1人が準決勝に進出。合格ラインをぎりぎりクリアした、といえる結果を残した。

3種目で見どころが異なるのも面白い。

男子110 mHは世界陸上代表3人の争い(リオ五輪代表の矢澤航=デサントTC=はケガのため欠場予想)。日本選手権優勝の髙山峻野(ゼンリン)、前述のように世界陸上準決勝に進出した増野、4~5月の世界陸上選考2レースで2連勝の大室秀樹(大塚製薬)と、今季それぞれ強さを見せている。

日本選手権優勝の髙山が日本一の肩書きを得たが、日本選手権予選で13秒40の日本歴代2位(現役日本人最高)をマークした増野は、脚に軽い痛みが出て決勝は本調子ではなかった。大室も日本選手権前に故障があり、無念の準決勝敗退。全日本実業団陸上こそがシーズン・ナンバーワン決定戦といえる。

レース序盤に強いのが大室と髙山で、どちらが前半をリードするかにまず注目したい。そして中盤から後半に強いのが増野で、増野の追い上げが届くかどうかがレース後半の焦点だ。

男子400 mHは、実業団選手の世界陸上代表は安部1人。その安部にリオ五輪代表だった野澤啓佑と松下祐樹のミズノ・コンビが挑む。

同学年の3人は松下が2年前の北京世界陸上で準決勝に進出し、昨年はリオ五輪で野澤が予選で自己新をマークして準決勝へ。そして今年の世界陸上は安部が準決勝で6台目までは上位争いに加わった。セミファイナリスト3人の争いを制し、五輪&世界陸上での決勝進出へ弾みをつけたい。

◆長居の戦いが世界に通じる道に

この大会は日本選手権で敗れた選手たちにとって、リベンジの好機となる。男子400 mHでリオ五輪代表だった松下は7月のオールスターナイト陸上で優勝した際に、全日本実業団陸上の目標を次のように話した。

「48秒台が目標と言い続けて、どうしても48秒台が出せません(自己記録は49秒10)。壁を破れないのが悔しいので、今回は記録にこだわって臨みます。そのためには夏に走り込んで、ストライドの安定やラストの粘りを強化したい。野澤も(今季前半の)故障から復活すると思うので、万全の状態の彼に勝ちたいですし、そのためにも48秒台は最低条件です。安部も同じ年なので、同学年みんなで世界に挑戦して、その中でも1位にこだわります」

3人とも世界の準決勝を走り、持ち帰ったものがある。世界で戦うための課題を練習に落とし込み、そこを経て全日本実業団陸上での同学年決戦に臨む。長居の戦いに勝つことが、世界に通じる道となっていくはずだ。

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